
2025年9月末に開催された東京ゲームショウ(TGS)。国内最大級のゲームの祭典で、ストリートファイターシリーズを展開しているカプコンは、世界大会”カプコンカップ”のライブ配信の視聴を有料にすることを発表しました。
ストリートファイター6は発売より人気を博し、配信や大会も盛り上がり続けていました。
そんな中で起きた今回の発表。
昨年まで無料だったライブ配信が急遽有料となったことやその金額に関してSNSでは議論が起きています。
カプコンの発表
今回の世界大会の配信の有料化について、主な議論は次の3つです。
- 昨年まで無料だった世界大会決勝の有料化と金額の高さ
- 予選は世界各地のコミュニティが運営している
- 発表時にプロデューサーやディレクターがおらず、選手や解説者に発表させた
有料化と金額
カプコンカップはストリートファイターの大会の中でも最も名誉ある大会で、今作は優勝賞金100万ドルというゲーム史上でも最高クラスの賞金の大会です。選手の目標とする大会で、今年は決勝が日本の両国国技館で行われるということもあって注目度は最高潮でした。
しかし、ライブ配信が有料になることがTGSで発表され、その金額もかなり高額です。


画像下がライブ配信の視聴料金です。カプコンカップの視聴料金は4,000円です。
ゲーム配信を見るのに4,000円を払う人はなかなか多くはいない印象です。
さらに現地の入場料は最も安い席で2,000円なので、なんと現地観戦よりも高いのです。
リアルタイムでの配信の視聴は4,000円かかりますが、1週間後には誰でも無料で見れるようになるというのも、有料で払いにくいと感じさせます。
地方予選はコミュニティが運営
世界各地の大会でポイントを稼ぎ、カプコンカップにはそのスコアが高かった人が出場できます。
まさに1年の集大成のような大会です。となれば日本以外の地域でもその注目度は段違いです。
その大会の様子が見れないとなると、各地のコミュニティの盛り下がりは免れません。
また、予選となる各地の大会は各コミュニティが運営しており、そこにカプコンの関与が大きくないことも反感を買う要因になっています。
発表時にゲーム開発関係者が不在
有料化の発表の方法も非難されています。
発表時にストリートファイターのディレクターやプロデューサーは壇上におらず、人気選手と人気実況者のみでした。コミュニティから人気のある人たちに有料化を発表させて非難を減らそうとしたムーブがかなりの反感を買っています。
さらに、「重大発表!」という告知で人を集めてからの有料化の発表も非難されています。
通常なら、ゲームイベントで「重大発表」と言われれば追加コンテンツなどの発表を期待するところです。その期待の中にプレイヤーにとって悪い情報が発表されれば落差で過剰に悪い印象になります。
※追記
カプコンカップの有料化はストリートファイターのディレクターも知らなかったとのこと。
現在はカプコン社内で調整を進めているようです。
カプコンの判断は正しかったのか
賛否ある発表でしたが、カプコンのeスポーツ部署は10億の赤字と言われていることも考慮する必要があるでしょう。
優勝賞金の100万ドル、両国国技館の利用料金など、コストが大きくなっていることも鑑みたうえで、世界大会の決勝のライブ配信を有料にするというカプコンの判断は正しかったのでしょうか?
結論から言えば世界大会の有料化は悪手です。
その理由と解決策を考察していきます。
無料で見れたほうが良いコンテンツとは
もちろんカプコンも営利企業なので、すべてを無料で提供するわけにはいきません。
しかし、マネタイズする箇所は吟味する必要があります。
「4,000円も払えないような貧乏人は見るな」といった意見はありますが、これは的外れな論法です。
企業が提供するコンテンツには「集客用のコンテンツ」と「利益用のコンテンツ」があります。
基本プレイ無料のFPSでは、プレイ自体は集客用のコンテンツです。着せ替えスキンやガチャが利益用のコンテンツとなります。
集客用のコンテンツはできるだけ間口を広くしなければなりません(基本プレイ無料など)。そして、利益用のコンテンツでその分を補填するのが一般的です。
ゲーム大会において、集客用のコンテンツとはまさに「世界大会」です。
世界大会はもっとも注目度の高い試合なので、より多くの人が見ます。普段サッカーを見ない人もワールドカップは見るという人も多いのと同じです。
ワールドカップやオリンピックから競技に興味をもってもらい、地方リーグなどの試合をサブスクで視聴する。世界大会はコンテンツに興味を持ってもらう入り口としての役割が非常に強いのです。
その点から、世界大会を有料にして間口を狭めるという今回の決断は将来のストリートファイター購入者、新規視聴者を取り逃がす方策だと言えます。
集客用のコンテンツである世界大会を利益用のコンテンツとして利用したことの弊害です。
eスポーツ部署のみの赤字は当然
そもそもeスポーツ部署単独での赤字は当然と言えます。
eスポーツもスポーツ興行なので、広報の意味合いが強いです。野球やサッカーもスポンサー企業の広報としての役割がメインで、Jリーグですら単独では利益を上げられていません。
つまり、カプコンのeスポーツ部の成績はストリートファイター6の売り上げを考慮しなければ評価することはできないのです。
リターンは見合っていたのか
世界大会のライブ配信を有料にすることによるリターンは見合っているのでしょうか?
仮に、有料で配信を見る人を5,000人とすると、それによって得られる利益は2,000万円です。
無料の場合に新しく始める人も5,000人とすれば、それによって本来得られたはずの利益は4,000万円になります。
加えて、プレイヤーのモチベーションの低下によって、スキンの売れ行きにも影響が出る可能性も十分に考えられます。
実際の潜在顧客の損失はもっと高いと思われます。
有料化によるリターンは見合っていないと言えるでしょう。
金額に見合っているのか

視聴料金が4,000円と高額であることも議論の的です。
大会の配信に4,000円払うだけの価値を顧客側が感じるかと言われると厳しいでしょう。
「無料だから見ていた層」は大会1週間後の無料配信で見るだけです。
「有料でも見る層」にとっても、1週間待てば無料で見れるもののために4,000円払うのは気が引けます。
さらに、無料で見る層はリアルタイムの熱を感じられずに、興味が失せてしまい、有料でリアルタイムで見る層は熱気をみんなと共有できないという、lose-loseの施策という見方もできます。
4,000円あればゲームが1つ買えるし、現地で見ることもできる。
ただ家で大会を観るだけで、観客が付加価値を感じづらいので、4,000円という価格は見合っていないと言えます。
この強気の値段設定は現地観戦者を増やすためではないかと邪推するレベルです。
どうすればよかったのか
コストの削減
ではほかに方法はなかったのか。
一つはコストの削減です。
優勝賞金100万ドルが予算を逼迫させているのであれば、それを削減するのも方法のひとつだったと思います。
優勝賞金の削減は見栄えは悪くなり、一見すると盛り下がりますが、100万ドルが50万ドルになったとて、選手から文句がでるとは思いません。
また、会場の両国国技館もコスト面で足を引っ張っていると考えられます。
ライブ配信の有料化で得られる利益程度であれば、そこのコスト削減で賄える程度だと予測されます。
スキンとのセット販売
ライブ視聴のチケットに限定スキンを付けるのは付加価値としてアピールしやすいです。
eスポーツ以外のイベントでもメインの収益は物販なので、イベント特有のグッズを販売するのはソリューションとして挙げられます。
特にeスポーツでは、優勝チームのスキンやステッカーなどをゲーム内で販売する方法が古くから取られていました。
放映権の販売
オリンピックやワールドカップでは放映権を高額で販売しています。
eスポーツの世間からの注目度はまだそこまで高くないので、実際は難しいかもしれませんが、選択肢としてはあったと思います。
また、eスポーツカフェのようなところと契約して、パブリックビューイングでの放送を許可すれば、みんなで盛り上がることも可能です。
総括
今回のカプコンカップの有料化はeスポーツの収益性の脆弱さが浮き彫りになった瞬間です。
とはいえ、世界大会のライブ配信有料化は褒めらるべき発表とは言い難いです。
コミュニティ内でも議論が活発化しており、ストリートファイターの開発とeスポーツ部署も調整を行っているところなので、今後の動きに注目です。
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