日本には今や数多くのeスポーツチームがあります。有名なところでは「CR」や「ZETA」。
eスポーツ選手はこのような有名なチームに所属したり、世界大会で活躍したりすることを目標に日々努力をし続けています。
今回はそんな彼らの…ではなく、そんな彼らをサポートしているチームやスポンサー企業に目を向けたいと思います。スポンサー側の視点から、eスポーツにお金をかける意味を考えてみましょう。
プロゲーマーは支援してくれるスポンサーがいなければ活動できません。スポンサー企業がeスポーツ業界を支えているとも捉えることができます。
スポンサーとeスポーツの広告効果について考えます。
eスポーツの宣伝効果
eスポーツも野球のようなフィジカルスポーツと同じように企業がスポンサーとして選手に付き、彼らの活動をサポートします。活動費や報酬を出す代わりに選手には企業の広告塔になってもらうという形式ですね。
eスポーツもその基本構造は同じです。選手やプロチームをバックアップし、その代わりに自社を宣伝してもらいます。
ユニフォームに企業名を記載したり、選手の配信画面にロゴを入れてもらうことによって宣伝するのが一般的ですが、選手に直接商品を宣伝してもらうこともあります。
eスポーツ業界のスポンサーが野球やオリンピック選手のスポンサーと大きく異なるところは、宣伝対象を絞ってより質の高い宣伝を行うことができるところです。
まずは他のスポーツ興行について考えてみましょう。
日本のスポーツ興行のトップは野球です。
日本野球は国民の認知度がバツグンに高く、平日のゴールデンタイムにほぼ毎日試合を中継しているため宣伝効果も極めて高くなっています。
さらに、チームは地元に根差しているため、地元企業のPRに野球選手を起用すれば高い宣伝効果を見込めます。
オリンピックも興行として優秀です。
世界中が注目する4年に一度の祭典ですので、スポンサー企業は国民の多くにアプローチすることができます。
普段はあまり注目されない競技でもメダリストになれば宣伝効果が跳ね上がります。
野球選手のスポンサーには地元企業が付くケースが多い一方で、オリンピックメダリストには全国区の企業がスポンサーにつきやすい傾向があります。
野球は地元住民にアプローチし、オリンピックは日本国民に広く認知してもらう目的で宣伝してもらいやすいという性質があるのです。
一方でeスポーツはどうでしょうか?
eスポーツの宣伝対象は10代~20代の男性です。
業界自体が大きくないため、宣伝のメインターゲット層に対して効果的な施策を打つことができ、必要な費用も比較的安く抑えられます。
ゲームや配信と親和性の高い企業であれば高い費用対効果を見込めます。
eスポーツ興行のターゲット
eスポーツの宣伝対象は10~20代の男性ですが、ゲームの種類やスポンサー形態によって多少の差異があります。
スポーツ興行として規模が大きいFPSと格闘ゲームの二つの業界でもコミュニティを形成する人の属性は異なります。
FPS・TPS
FPSは10代から20代前半の男性が厚い層です。
また、TPSの「Fortnite」は年齢層が特に低く、小学生から中学生のプレイヤー人口が多いです。
他のeスポーツのジャンルと比較して10~20代の女性の割合が高いことも特徴です。
ゲームのシステムとして通話や協力プレイが前提でゲームが多いため、彼氏や友達の影響で始める若年女性が一定数います。
格闘ゲーム
格闘ゲームは20~30代の男性がメイン層です。
格闘ゲームは歴史が長く、年齢層が他のゲームジャンルより高いのが特徴です。
プレイヤー層のほとんどは男性ですが、観戦勢には女性視聴者もいます。
その他
多くのゲームジャンルで若年層の男性がメイン層です。
「スマッシュブラザーズ」は10代後半が非常に多く、「グランツーリスモ」は30代以上が多くなっています。
宣伝対象
10代
基本プレイ無料、スマホでできる、家庭用ハードウェア(Nintendo Switchなど) でプレイできるといったいわゆる敷居の低いゲームは10代の割合が高くなります。スマホでできるゲームは操作が簡単であるため、若年層とマッチしやすいという理由があります。
学校のような限られたコミュニティで流行ると、人気は爆発的に広がります。一方で、彼らは自由に使えるお金が少ないため、彼らに刺さる商品を宣伝しても売上に直結しにくいのです。
20代
大学生や新社会人という理由から、20代は独り暮らしの割合が高い世代です。家にゲーミングPCを持っている人が多く、PCゲームの人口が多いです。
学校のような限られたコミュニティで流行ると、人気は爆発的に広がります。一方で、彼らは自由に使えるお金が少ないため、彼らに刺さる商品を宣伝しても売上に直結しにくいのです。
30代
格闘ゲームやレースゲームでは30代の男性の割合も高くなっています。金銭的に余裕のある人の割合が増える一方で、家庭を持つ人の割合も増え、自由に使える時間と空間が制限されます。
親和性の高い商品
eスポーツは観戦者とプレイヤーが被っています。ゲームはしないが観戦はするという人の割合が少なく、観戦者向けの商品とプレイヤー向けの商品で分けてマーケティングすることによるメリットが薄いです。
周辺機器
最も親和性の高いものは周辺機器(ゲーミングデバイス)です。
特にPCゲーム用の周辺機器は高価ながらプレイヤーが最も気を遣うところです。
高性能なモニター、ヘッドホン、キーボードはゲームの結果に直結するので、ここは投資されるポイントです。
性能だけでなく、デバイスの見た目が良いことも評価されます。
特に持ち運びを想定しているコントローラーは見た目と持ち運びやすさをより重視されます。
PS5やnitendo switchのような据え置き器用の周辺機器は宣伝効果があまり見込めません。
据え置き器自体がゲームプレイに特化しているものなので、周辺機器が入り込む余地がなく、どうしても公式の純正品には勝つことができないためです。
配信機器
配信機材もeスポーツ興行と相性のいい分野です。
eスポーツの特徴は「だれでも配信できる」「遠方の人と一緒にプレイできる」ことですので、そこで必要になるカメラ・マイクにはお金をかけるポイントです。
ゲーム配信には必要不可欠な配信ソフトも訴求力があります。
ゲーム画面をキャプチャするキャプチャボードも宣伝効果が見込める商品でしょう。
eスポーツのスポンサー
eスポーツで自社を宣伝する形態は次の3つに分類されます。
1.チームスポンサー
2.選手個人のスポンサー
3.大会やイベントのスポンサー
1.チームスポンサー
ゲーミングチームの運営を物的にサポートします。
金銭面でサポートする以外にも、自社がゲーミングデバイスを販売している場合は、自社商品を寄付して選手に使ってもらうことで宣伝になります。
チームのユニフォームに企業ロゴをのせることも可能です。大会の配信で多くの人の目に留まるため、認知拡大を狙えます。
チームスポンサーの大きなメリットは企業同士での契約となることです。
契約手続きに関して選手個人とやりとりするよりも信頼できます。
しかし、現在はだれでもゲーミングチームを立ち上げられるので、与信情報には十分注意しなければなりません
もう一つのメリットは複数ジャンルのゲームプレイヤーに訴求することができる点です。ゲーム周辺機器のように幅広いジャンルで使われるもので、価格が高い商品であれば高い費用対効果を得られるでしょう。
2.選手個人のスポンサー
選手個人をサポートすることも可能です。
大会遠征費や活動費をサポートし、代わりに配信にロゴをのせてもらいます。
選手個人をサポートすると、選手の所属するコミュニティにダイレクトに認知してもらえます。
例えば、格闘ゲーム専用のコントローラーである「アーケードコントローラー(アケコン)」。
アケコンを宣伝したいのであれば格闘ゲームのトップ選手をスポンサーするのが良いでしょう。
FPSの強豪チームに宣伝してもらっても効果は見込めません。
eスポーツの広告は宣伝対象を絞りに絞っていく必要があります。
3.大会やイベントのスポンサー
大会のスポンサーになるとかなりの宣伝効果が見込めます。
大規模大会で注目度が高ければ、宣伝効果は上2つよりも高いです。
大会のスポンサーになることのメリットとデメリットをまとめました。
チームや選手との契約では、スポンサーを初めてから思ったよりも宣伝効果がなかったとわかっても契約期間中は援助を続けなければならないためです。
不祥事などの正当な理由なく契約解除をしてしまえば、かえってコミュニティからの印象が悪くなります。
大会やイベントに投資すれば、そのようなリスクを抑えられます。
eスポーツのスポンサーはいくらが妥当か
トップクラスのスポーツ選手は1CMあたり数百万から数千万の報酬を得ます。
年俸も数億円に上ります (年俸はスポンサー企業とチームを運営している企業からの支出で賄わています)。
日本のスポーツ興行では野球が規模も金額も圧倒的ですが、そのほかのスポーツでは収入の一般的なサラリーマンとさほど変わらない(野球の社会人リーグでさえ所属するだけでは報酬が発生していない) ので、eスポーツ選手の報酬もそこまで高くはありません。
eスポーツチームは大手チームでも報酬はないところもあります。
選手やストリーマーは自身の配信活動による広告収入を主とする場合が多く、純粋な選手活動だけで生活できているプロゲーマーは一部です。
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例として選手と個人的にスポンサー契約を結ぶことを考えてみましょう。
サポートの仕方は「①月払いの報酬」「②遠征費などの活動支援」「③成果報酬」の3つのパターンを考えます。
①月払い報酬
契約時に月にどれくらい払うかを決め、定額で報酬を払います。広告専用の社員を雇うような感覚ですね。毎月の定常コストとなるので負担が重く、ポテンシャル契約はできないでしょう。
報酬額は自社商品や選手の影響力にもよりますが、有名ゲームのトップレベルであれば月10~30万程度が妥当です。
LoLやVALORANTなどの世界的ゲームトップ選手の報酬は月100万を超えます。これはチームからの報酬・選手個人のスポンサー報酬・大会報酬のトータルなので各企業が選手一人に与える報酬ではそこまでは行きません。
とはいえ、広告に毎月30万も出すのはコストに対してパフォーマンスが悪くなりがちです。
②活動支援
そこで選手の活動を支援するという契約方法があります。
大会の遠征費や配信環境を整えるための資金を援助するやり方です。
月額報酬制と異なり、不定期で少額の支援にとどまるため参入しやすい支援方法です。
例えば、大会のために月に3回遠征し、交通費が1回1万円の場合は月に3万円の費用となりますので①のパターンよりも格安です。
しかし、世界大会に行く場合は一回の遠征費が20万を超えます。
そのような予想外の出費を避けるために、契約時に支援金額の上限を設けることがあります。
③成果報酬
成果報酬は②よりもさらに報酬のムラがあります。
最も不安定な契約形態です。難しいのは成果とそれに見合う報酬の定義です。
1年前には中堅程度だったプレイヤーが急に結果を出すケースがeスポーツ業界ではよくあります。
地方のコミュニティ大会で上位入賞クラスの人と契約して、1年後・2年後にはその選手が世界大会でTOP4まで行ったとします。
地方大会の上位入賞と世界大会のTOP4では業界への影響度と知名度は天地の差がありますので、報酬もそれに見合うようにしなければなりません。
このケースでは、地方大会の結果で1万円の報酬としていた場合、世界大会TOP4なら100万円くらいの報酬とするのが妥当でしょう (ゲームタイトルやコミュニティの大きさによります)。
また成果報酬では選手が結果が出ないときにメンタルと生活の両面からプレッシャーをかけることになるのでオススメできません。
トッププレイヤーとその他のプレイヤー
eスポーツ業界の発言力や影響力はトップ選手に集中する傾向が強くあります。
そのため、トップ選手とそれ以外の選手ではスポンサー報酬も所属チームからの報酬も大きく乖離があります。トップ選手と強豪チームには多くに企業からの支えもあります。
トップ選手以外のプライヤーをサポートする場合、月1万円程度に抑えるのが普通ではないかと予想されます。
まとめ
eスポーツ業界は整備が進んでいない箇所がまだまだあります。
選手の収入についてもそうです。超有名選手でも報酬がいくらなのか、どのような報酬形態なのかはブラックボックスの中で、正確な情報は不明です。
本記事ではスポンサード形態や報酬の相場を紹介しました。
業界の中にいる人間でも、それこそ同じプロ選手同士でも報酬についての正確な情報は分かっていません。
野球の年俸契約のように契約形態と報酬額を明らかにするような流れになれば、今とは違った面白さが生まれるかもしれません。
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