なぜプロゲーマーは炎上するのか?これからのeスポーツ業界のあり方

「身長170cmありますか?」

かつてこの話題でプロゲーマー人生を引退に追い込まれるまで炎上した事件がありました。

ここ数年、急速な成長を遂げているeスポーツ業界。
その中心であるプロシーンになくてはならない存在がプロゲーマーです。プロゲーマーという職業も最近ようやく普及し、社会に受け入れられつつあります。

しかし、界隈が大きくなればなるほど顕在化される問題もあります。それが“炎上”です。

今回はかなりセンシティブな話題である、炎上について考えます。

“炎上”はなぜ起こるのか

“炎上”という言葉はSNSが広がり、定着してきたここ数年に生まれた、比較的新しい言葉です。昔は芸能人などの有名人の不祥事としてワイドショーなどで報じられえていたような内容が、このSNS社会においてYouTuberなどのネット上での有名人もその標的となりました。しかし、記者が特ダネとしておさえるような芸能人の不祥事とは異なり、SNSでの炎上はタレント自身が行っている配信活動内での失言や、非常識さの露呈する言動を直接的に一般人に知られてしまうことで発生します。

まさに火が燃え広がるように瞬く間に悪い噂がネット上を駆け巡ります。

多くの人が自ら発信する力をつけた現代のネット社会での炎上は、ワイドショーの特集とは比較にならないほどのスピードで燃え広がります。その流れにのってあることないこと噂が吹聴される事態になります。YouTuberやインフルエンサーだけでなく、ネット上での活動が主となるプロゲーマーも炎上は身近な存在です。

YouTuberやプロゲーマーといった職業は、芸能人よりもファンとの距離が近い傾向にあります。芸能人の私生活についてはよく知らない人も多いですが、配信者は配信活動やSNSでの発信によって私生活がかなり明かされています。それによって親近感が生まれるというメリットもありますが、プライベートでの一般常識とかけ離れた言動が目立ったり、モラルにかける投稿をしてしまったりしてしまいます。そんなときは一気にSNS上で拡散され、炎上したタレント自体に詳しくない人のところにまで話が行ってしまいます。

また、テレビの企画と異なり、YouTuberの企画は、企画内容を精査する人物が少ないので、モラルに欠けた企画を行っても公開されて炎上するまで誰も気付かないという場合も多々あります。

誰でも発信できる時代に、多くの人の倫理観に反することやマナー違反なことをするとたちまち炎上してしまうのです。法律上問題ない行為である場合が多く、法で裁かれないからこそ、私刑にしようとする人間の集団心理の生んだ現象こそが、炎上であるといえるでしょう。

プロゲーマーの炎上

ここからはプロゲーマーの炎上となぜそれが起きたのかを考えていきます。

まずは一般的な例から、「死体打ち」や「屈伸煽り」はよく話題のタネとして挙げられます。「死体打ち」とはFPSなどですでに倒した相手に対してさらに攻撃することです。自身の残弾を消費する上に、一切メリットがないため煽りと捉えられています。「屈伸煽り」も同様に一切メリットがなく、無駄にシャカシャカと動かれて目障りなため、煽りとして有名です。

このような「煽り」は人によって考え方が大きく異なります。主に、「特に気にしない」「仲のいい間柄でのみしてもいい」「誰であろうとしてはならない」という3種類います。ゲーム文化はもともと友人同士でゲームしていたところから生まれた文化ですので、このような「煽り文化」が残っています。しかし、それをすべてのプレイヤー間で共有することは難しいことです。このような考え方の齟齬から、ゲーマーの炎上は起きてしまいます。

このような炎上は、考え方の違う人が多くいることが原因で起こります。

様々な考え方があり、そのどれもが間違っているとは言えないからです。
例えば、「煽りをすると相手が怒ってプレイに冷静さを欠くから、勝利のためにわざとやる」という人もいます。これも一概に否定できる考え方ではありません。

また、仲のいい有名プレイヤー同士が配信などで煽り合っている場面というのは多々見られますが、そのようなゲーム文化に触れてこなかった初心者にとっては、その光景は「煽りってしてもいいんだ」と思わせるものになってしまいます。

ゲームがeスポーツとしてここまで注目されていなかったときは、コミュニティに所属している誰もがそのゲーム文化や不文律 (暗黙の了解)を心得ていました。それを教えてくれるのはゲームセンターにいた先人たちであったり、一緒にやっていた友達であったりしました。

しかし、地元のゲームセンターからSNSへと活動の場が移り、所属するコミュニティの人口が多くなったり、ゲームをプレイしていない観戦者にまで界隈が広がると、全員が同じ文化や認識を共有することは極めて困難になります。
そのような状況で、地元のゲームセンターや友達の家のような感覚で行動すると炎上してしまうのです。

ゲーマーにしか伝わらない言葉「人権がない」

プロゲーマーの炎上に関して有名な話があります。

冒頭でも触れた事件で、元プロゲーマーの”たぬかな“氏は自身の配信にて以下のような趣旨の発言をして炎上しました。

「身長が170cmない男は人権がない」

この発言を聞いてどう感じましたか?もしなぜこれで炎上したのかわからなかったらあなたはゲーム文化によく触れている人でしょう。

事実この発言が炎上したとき、コミュニティでは安否両論ありました。
炎上の理由である「人権がない」発言ですが、少しでもゲームコミュニティにいれば、「人権がない」という言葉に悪意がないことも、普段からよく使われている言葉であることも知っているはずです。

ゲーム界隈で言われる「人権がない」という言葉は「戦いに参加できない」という意味で使われます。(例 :「このキャラは防御力が紙なので人権がない」)

ここでの発言の真意は「身長が170cmない男性の人は恋愛の場などにおいては勝負にならないほど不利である」ということだと、ゲーマーの人であれば理解できると思います。
それ自体はおおむね正しいことですので、もし配信を見ていた人全員がゲーム文化を共有できる人であれば何も問題は起きなかったことでしょう。

しかし、それを理解できない人もいます。

業界が大きくなり、人口が増えれば様々な人が現れます。
これまでの閉じたコミュニティで許されていた言動も許されなくなってきているのです。


界隈が大きくなるときには必ずこのような問題が起きます。それまでの文化を大切にするのか、さらなる界隈の発展や拡大のために新しい文化に適応するのか、界隈全体で迫られます。
界隈の発展に伴う新しい文化は、大抵の場合それまでよりも窮屈なものになります。友達の家のノリから学校でのふるまいに変化するようなものです。友達の家で、友達に対して「死ね!」と言ってもお互いに「本当に死ねと思っているわけではない」と理解しているので問題ありません。しかし、学校で同じように「死ね!」と言うと、担任の先生や学級委員長にすこぶる指摘されたり怒られたりするのと同じです。

このような変革期において、コミュニティに所属している人々はたぬかな氏の尊い犠牲から学ばなければなりません。
普段友人同士で行っている何気ない会話を配信や公の場では控えなければならないという学びです。特に有名な配信者やプロゲーマーになると、ほんの些細な言い方の揚げ足をとられて炎上します。友人との会話やゲームセンターでの会話は決して配信で世界中に流していいものではないのです。

皮肉も炎上のもとになります。皮肉も「共通の認識」があること前提で成り立つからです。皮肉が理解できないとは多くいます。また、「共通の認識」を前提とするものとして。コピペも危うい存在です。10年前には誰もが知っていたコピペも、今では知らない人は多くいます。コピペの改変で炎上してしまう可能性もあるので気を付けましょう。

また、ゲーマーがよく使う言葉の中に「脳死」という言葉あります。冷静に考えるとこれも相当ヤバい言葉であることが分かるでしょう。ゲーム文化での「脳死」は「思考停止して行動すること」を指します。
これもゲームに詳しくない人が聞いた場合は即座に炎上につながる危うい言葉遣いと言えます。

 

まとめ

今回は炎上について考えました。誰も炎上はしたいとは思いません。しかし、業界が大きくなる過程でそれは意図せず必ず起きていしまいます。

特にeスポーツはもともとゲームセンターなどのアングラな文化出身の業界であるため、不文律や共通の認識、煽り文化などの危うい岩の上にあります。そのような煽り合いやアングラな文化のままではeスポーツの拡大とともに炎上が起き続けるでしょう。それを回避するためには「配信で身内ノリの会話をしない」ことや「ルールを明確化する」ことが大事です。それでもなにか配信やSNSで口走ってしまいそうな人は是非”京言葉”を身につけましょう。

 

「ぶぶ漬けでもどうどす?」(=対戦ありがとうございました)

となる日が来るかもしれません。

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