日本eスポーツの先駆者 : 日本eスポーツ連合(JeSU)ってどんな組織?

2018年に「eスポーツ」が流行語大賞にノミネートされたことから、2018年はeスポーツ元年と呼ばれることがあります。そんな2018年に発足したのが日本eスポーツ連合(JeSU)です。

JeSUとはどのような組織なのでしょうか?国内のeスポーツ業界に多大な影響を与えた同組織。
今回は国内eスポーツの先駆けとなったJeSUという組織とその功罪を見ていきます。
さらに賞金問題として格ゲー界隈で大きな問題となった「ももち事件」についても紹介します。

JeSUとは?

JeSUは国内最大のeスポーツ組織です。日本国内のeスポーツの普及と発展を推進することを目的として2018年に発足しました。

発足理由は、2018年にジャカルタで開催された「第18回アジア競技大会」のデモンストレーション競技として実施されたeスポーツ競技へ、eスポーツの日本代表選手を派遣するためであり、複数の関連団体を統合する形で設立されました。

その後、現在に至るまでプレーヤーやチーム、大会主催者、eスポーツ関連企業など、業界全体の関係者を結集し、eスポーツの健全な成長を支援しています。

ゲーム会社の協賛や参画があり、独自で認定プロライセンスを発行しています

2024年現在JeSUがプロライセンスとして認定しているゲームタイトルは以下の通りです

  • eFootball
  • ギルティギア
  • グランブルーファンタジー VERSUS
  • STREET FIGHTER 6
  • 鉄拳8
  • DNF Duel
  • デッド オア アライブ6
  • TEPPEN
  • BLAZBLUE
  • Virtua Fighter esports
  • レインボーシックス シージ
  • モンスターストライク
  • パズドラ
  • ぷよぷよ
  • リアルタイムバトル将棋

2018年はFPSゲーム「Apex」が大流行した年でもあります。eスポーツという言葉が流行語大賞にノミネートされたのもこの年で、まさに激動の年でした。そして、JeSUの発足も相まって2018年はeスポーツ元年と呼ばれるようになりました。しかし、同時に2018年頃からeスポーツはオワコンだとも言われるようになります。

JeSU不要論ー明暗を分けた2018年ー

日本最初の大規模なeスポーツ団体として知られているJeSUですが、発足した2018年から「JeSU不要論」が言われていました。その理由には主に二つの理由がります。①公認タイトルが弱い ②プロライセンスが形骸化

①公認タイトルが弱い

JeSUが発足した2018年は上述の通り国内でApexが大流行し、海外では「LoL」がeスポーツ世界大会で盛り上がっていた時期でした。そんななか、発足したばかりのJeSUがeスポーツの公認タイトルを発表しました。

2018年当時は公認タイトルが6タイトルのみで

  • ウイニングイレブン
  • Call of Duty
  • ストリートファイター5
  • 鉄拳7
  • パズドラ
  • モンスト

というラインナップでした。当時世界的に人気だった「LoL」や「Fortnite」が入っていなかったこと、「ストリートファイター5」はシリーズ中でも人気がない作品で、他にも世界的にプレイ人口が多くないタイトルが含まれていました。そして極めつけはソシャゲの代表ともいえる「パズドラ」と「モンスト」が入っていることでした。ソーシャルゲームはプレイヤーが課金をすることで強いキャラが手に入り、勝ちにつながるという pay to win のゲームです。

“pay to win”とは「金が勝ちにつながる」性質のことです
課金して強力なキャラや武器を手にしたプレイヤーはゲームが上手でなくても無課金プレイヤーに簡単に勝つことができます

同じ実力の課金プレイヤーと無課金プレイヤーが闘うと、勝率は課金プレイヤーに大きく傾きます。もちろん、このような性質は競技として好ましくありません。

”pay to win” のゲームは最もeスポーツに向かないゲームです。課金要素で実力差をひっくり返せるゲームは本来eスポーツには不適切であるので、「パズドラ」のようなソシャゲが公認タイトルに含まれていたことは国内のeスポーツコミュニティから顰蹙(ひんしゅく)を買いました。

奇しくも当時はマスメディアもeスポーツに興味を持ち始めており、一般層の注目も高かった時期でした。そのような時期に、課金要素で勝ち負けが決まるソシャゲが「eスポーツ」として発表されたことによって、多くのゲーマーでない人がeスポーツを誤解する形になってしまいました。

そして、これはゲームを競技・スポーツとして捉えることに疑問を持っていた一般層が興味をなくすには十分な理由だったと思われます。

利権のための組織?

公認タイトルがこのようなラインナップとなったことに対して、eスポーツのコミュニティ内では利権のための組織ではないかと言われるようになりました。

というのも、JeSUの役員には「KONAMI」「CAPCOM」「ガンホー」「セガ」などの国内ゲーム会社の社長が名を連ねていたからです。

発足時には「国内大手ゲーム会社が集結して、いよいよ日本でも本格的にeスポーツが流行るのか」と期待されていました。
しかし、蓋を開けてみれば、認定タイトルに世界で流行っているゲームタイトルは殆どなく、挙句の果てにソシャゲまでeスポーツとして認定されたことで、「自社の利権のための組織」だと認識されてしまったということです。

②プロライセンスの形骸化

JeSU不要論の原因のもうひとつは「JeSUが発行するプロライセンスが形骸化している」ことです。上述した通り、世界的に競技シーンの市場が大きく、プロが活躍している「LoL」や「VALORANT」といったタイトルは現在でも公認タイトルに選出されていません。
もちろん、これらのゲームタイトルでも国内のプロプレイヤーはたくさんいます。このようなタイトルにおいて、強豪プロチームに所属できるかどうかにJeSUのプロライセンスの取得は関係ありません。

また、発足時は法律の整備が進んでおらず、高額なゲーム大会の賞金は法律違反である可能性がありました。景表法によって、大会の景品・賞金は10万円を超えてはならないというのが当時の国内での認識でした。そのため、JeSUはプロライセンスを発行して「仕事としての報酬」として賞金を受け取ることでこの問題を回避しようとしました。プロとしての仕事の報酬であれば賞金の限度額は実質存在しません。JeSUのプロライセンスを取得すれば、大会の高額賞金を仕事の報酬扱いで受け取ることができるという理屈です。

しかし、JeSU発足間もなくの2018年3月に消費者庁がプロゲーマーの報酬について次のようなコメントを発表しました。

消費者庁コメント
“esports大会出場者が優れた技術によってesports大会出場者が優れた技術によって観客を魅了する仕事をし、その報酬として賞金を得る場合、その賞金はプロ・アマを問わず、景表法で言う 景品類 には該当しない。

プロ・アマに関わらず(JeSUのプロライセンスの有無に関わらず)、ゲーム大会で賞金を受け取ることが認められたということになります。この発表により、JeSUのライセンスには意味がないのではないかという議論が生まれ、上述の理由も相まってJeSU不要論が唱えられるようになりました。

この件について詳しくはこちらの記事をご覧ください(外部リンクに飛びます)

大会賞金がもらえない?界隈を震撼させた「ももち事件」

現在、忍ism(シノビズム)所属のプロゲーマー兼代表取締役でもある「ももち」選手。

ももち選手

2019年当時JeSUのプロライセンスを取得していなかったももち選手は東京ゲームショウ2019内で執り行われた「『ストリートファイター5』カプコンプロツアー2019スーパープレミア日本大会」という大会に選手として出場し、見事優勝を果たしました。

この大会は優勝賞金500万円に加え、ゲーミングモニターなどの副賞もつくという大規模なeスポーツ大会でした。
そんなコミュニティ内での注目度も高かったその大会で優勝したももち選手が受け取った賞金額はなんと10万円。JeSUのプロライセンスを持っていないことを理由にももち選手は獲得賞金が50分の1にまで減少してしまったのです。

しかも10万円から副賞のモニター代なども引かれ、現金で数万ほどしか受け取れなかったとされています。

同じく東京ゲームショウのなかでJeSUによって「ライセンスの有無に関わらず10万円を超える賞金をうけとることができる」という発表がなされたばかりでした。その直後の大会で賞金500万が10万に減額されるという事件はeスポーツ界隈に大きな波紋を呼びました。

10万円を超える場合は賞金が景品類に分類され、景表法に違法する可能性があるとされていました

この件によってコミュニティ内でのJeSUへの不信感は爆発することとなりました。
その後、2019年12月にJeSUとももち選手は何度も話し合いを重ねた結果、双方が合意に至り、ももち選手はJeSUのプロライセンスを取得しました。

JeSUの功績

ここまで見ると、JeSUはeスポーツ業界にとって不必要だと判断されそうですが、そうとも限りません。まず、国内の大手ゲーム企業が結成してeスポーツを迎え入れる姿勢を見せたことには意味があります。結果としてコミュニティ内から不信感を持たれたり、外部へのアプローチとして初手を誤ったりしましたが、eスポーツ業界の存在を広く国民に認知してもらうことには成功したと言えるでしょう。

プロライセンスについての騒動もあり、現在ではその意義が失われつつありますが、グレーだったプロゲーマーの賞金問題に最初にJeSUが切り込んだことは立派な功績です。紆余曲折ありましたが、そのおかげで現在はゲーム大会の高額賞金問題はほとんどクリアされました。そして賞金の法律の認知がeスポーツ業界関係者に浸透しました。

また、現在では都道府県や各自治体でeスポーツ協会を結成しているところも増えています。全国にあるそれら組織の多くはJeSUに加盟しています。

JeSUが定期的にシンポジウムや情報共有の場を提供していることはeスポーツに取り組む地方自治体にとって大切な助けになっているのです。

まとめ

JeSUは、日本のeスポーツ業界における重要な組織であり、業界の発展と普及に向けて多くの取り組みを行っています。公認タイトルの選出、プロライセンス制度とプロゲーマー支援、大会の認定とサポート、これらはJeSUの主な取り組みです。

しかし、課題や改善点も存在しました。組織の透明性やその存在意義はいまだに議論の中にあります。今後は業界全体との協力や透明性の向上などによって、より健全なeスポーツ環境の構築が求められています。JeSUのさらなる取り組みが日本のeスポーツの発展に大きく貢献することを期待しています。

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