【2024年度最新版】このままではオワコン化?eスポーツの抱える課題

昨今急速な勢いで成長しているeスポーツ市場ですが、それに伴ってさまざまな問題が分かってきました。eスポーツの現状は、海外の大手プロチームが赤字であったり、国内プロチームは赤字を垂れ流していたり、ゲーム大会が参加者不足になったりと、メディアで取り扱われている内容と実際の状況は少し異なるようです。一見大きな盛り上がりを見せているeスポーツ産業ですが、山積みされている問題と向き合わなければ一過性の流行で終わってしまうでしょう。今回は現在eスポーツが抱えているそのような問題をご紹介します。

主に次の6つの問題を抱えています。ひとつずつ見てみましょう。

  • 法律の壁
  • ゲーム開発元の運営方針
  • プロの収入
  • 観戦の難易度
  • スポンサー不足
  • 健康被害

法律の壁

まず何より大きい問題が法律の問題です。新興興行であるeスポーツ産業では法整備が十分とは言えない状況です。JeSU(日本eスポーツ連合)や各メーカーの尽力もあり、eスポーツが誕生した2018年当時よりはかなり改善され、ルールも明確になってきましたが、問題はまだまだ残っています。

2024年現在、大会の賞金を参加費から充てることができません。参加料から賞金を出すと「賭博」にあたるとされています。毎年アメリカで開催されている世界最大の格闘ゲーム大会「EVO」は参加者の数によって優勝賞金が変化する方式をとっていますが、日本ではこのような方法で運営することはできません。参加費は全額運営費に充て、賞金などはスポンサーから出してもらわなければならないため、個人で大会を開催する場合はスポンサーがつかず、賞金が出せないというのはよくある事例です。

日本でeスポーツという言葉が広まり始めた2018年ごろは、「大会賞金は10万まで」という縛りがありました。これは「景品表示法」に由来するもので、高額な景品で参加者を募集することは好ましくないとされていました。現在はおおむね整備され、国内でも高額な賞金を出す大会も増えてきました。

※景品表示法と日本eスポーツ連合の話はこちらで詳しくご紹介しています

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また、競技に使用されるゲームはゲーム開発会社の著作物であるため、著作権の問題があります。また、それに伴って会社ごとにどのようにIPを扱うかが異なります。これについては次で詳しく解説します。

ゲーム開発元の運営方針

競技性のあるゲームがeスポーツとして普及するためにもっとも重要な要素はそのゲームの開発会社の方針です。ゲームのコンテンツはゲーム会社の著作物であり、eスポーツの業界はそれを”使わせてもらっている”状態です。

例えば、ゲーム会社が「ゲーム画面を一切配信してはならない」という方針であれば、仮にそのゲームが競技性に優れていたとしても、大会を配信できないため、そのゲームがeスポーツとして普及する可能性は小さいでしょう。また、ゲーム会社自身は自由に自社のゲームを扱えるわけですから、大会やイベントなどは自由に開催できます。

このように、eスポーツの普及や発展に最も重要なのはプロ選手でも実況者でもなく、ゲーム開発会社であることが分かると思います。

ここで、今eスポーツとして盛り上がりを見せているタイトルを保有している大手ゲーム会社の。任天堂、CAPCOM、Riot Gamesの運営方針を見てみましょう。

任天堂

任天堂が保有しているIPである「大乱闘 スマッシュブラザーズ」は発売して以来eスポーツとして人気がありました。最新作である「スマブラSP」の発売時期はちょうどeスポーツ黎明期の2018年だったこともあり、急速に競技的なイベントやコンテンツが増え、プロ選手も増え続けました。発売から5年たった20223年でも国内で大規模な大会が開催され、YouTubeでの最大同時接続者数は10万人にもなり、その人気の高さがわかります。

しかし、このように国内で盛り上がっているスマブラの競技大会はすべて非公式・非公認の大会です。競技的なオフライン大会は任天堂公式は開催していません。非公式大会の開催はIPの利用規約としては許可は降りませんが、任天堂はこのような大会を黙認しているという状態です。

そのため国内すべての大会は有志が運営しており、スタッフも全員がボランティアです。

また、任天堂の方針として国内のスマブラ大会では賞金が一切出せません。また、大会参加費をスタッフに支給することができず、すべて運営費にしなければなりません。

そのため、参加者1000人越え、YouTube視聴者数10万人越えの国内最大の大会であっても、実は運営は赤字です。

また、前述した格闘ゲームの祭典「EVO」では、以前はスマブラもメインタイトルで採用されていましたが、2022年以降は任天堂の許可が下りず、タイトルから外されています。

しばしば「任天堂はeスポーツの発展を阻害している」と言われていますが、そう言われる原因はこのような公式としての動きにあるようです。

2023年10月追記:任天堂がゲーム大会のガイドラインを発表しました。ガイドラインについて解説した記事はこちら。

任天堂がゲーム大会のガイドラインをついに公表
2023年10月24日、任天堂がゲーム大会における自社著作物の利用についてのガイドラインを公表しました。以前こちらの記事でも触れていましたが、これまで任天堂はeスポーツや大会に関して消極的な姿勢を見せており、明確なガイドラインがない...

任天堂のガイドライン原文はこちら

CAPCOM

CAPCOMはeスポーツの先駆けである格闘ゲームの祖「ストリートファイター2」を世に出し、競技ゲームが社会現象にまで発展しました。2023年にリリースされた最新作「ストリートファイター6」はeスポーツを視野に入れており、新しく始めた人も多く、大きな盛り上がりを見せています。優勝賞金100万ドル (約1億5,000万円) の大会も開催され、いま最も勢いのある格闘ゲームです。

しかし、懸念点もあります。CAPCOMの規約では、ストリートファイターのオフライン大会を個人が開くことはできません。上で紹介したスマブラの大会は小規模なものから大規模なものまで個人の主催で、黙認状態ではありますが、大会自体は数も多く栄えています。しかし、ストリートファイター6は個人が大会を開くことができず、法人であっても参加費を取る場合はビジネス許諾を取らなければならないため、大会の開催に高いハードルがあります。プレイ人口が多いわりに大会やイベントが少なく、プレイヤーたちのモチベーションの維持が課題となっています。

CAPCOMが主体となって毎年リーグ戦を行っていますが、参加者はトッププロのみであり、誰でも参加できるものではありません。そのため、プロではないが腕が立つような競技勢にとっては明確な目標がなく、プロとそれ以外の観戦者という構造になっています。観戦者のなかにはプロたちとも勝負ができるほど上手な人もいますが、そのような人たちが活躍できるような場所が現状かなり少ないというのが問題です。

もっと気軽に大会が開催できる状態になれば、そのような上位勢の目標ができ、また、多くのプレイヤーのモチベーションアップにつながるため、プレイ人口の減少を防ぐことができるでしょう。

Riot Gmaes

Riot Gamesは2007年に設立されたアメリカの会社で、世界的に人気のあるMOBAの「LEAGUE of LEGENDS」や、リリースされて以降国内外問わず爆発的人気を維持しているFPSゲームの「VALORANT」を運営しています。当初よりeスポーツを主眼に運営しており、上ふたつの企業よりもコミュニティに寄り添った方針を取っています。そのため、イベントや大会のガイドラインも明確になっており、許諾も比較的とりやすいほうです。

イベントガイドラインを見ると具体的な規模や賞金が決まっていることが分かります。また、申請すれば大会の賞品としてゲーム内通貨などを配布することもできるため、気軽に賞品付き大会を開催して人を集めることができます。

また、公式の大会やツアー、オフラインイベントの規模も極めて大きく、ゲーム大会の観戦をエンターテイメントとして発展させようという運営の意志を感じます。

2022年に開催されたVCT (VALORANT Champions Tour) のプレーオフはさいたまスーパーアリーナで開催され、有料観戦席での観客数が2日間で26,000人を動員を達成し、配信での同時接続者数は29万人にものぼりました。

今後も大規模なイベントを開催し続けることは間違いなく、コミュニティとの距離も近いため、eスポーツを引っ張って行く会社になるでしょう。

プロの収入

プロの収入が安定していないことも問題のひとつです。

eスポーツ業界がまだまだ小さいので仕方のない部分はありますが、プロゲーマーの報酬はプロ野球選手のようには行きません。
大会の賞金だけでは十分な給料にはならないうえ、戦績によってかなりのばらつきがあります。

また、所属してるプロチームからの報酬も高額なケーズは稀です。
国内の大手プロチームでも月に数万円だったり無報酬であったりする場合もあるようです。プロゲーマーの中には昼は普通に働きながら隙間時間でプロ活動をしているという人もいます。
トッププロでも収入は配信活動による広告収入のウェイトが大きく、配信者やストリーマーといった側面が強いです。

また、プロゲーマーは野球選手の契約のように年俸などは特に明かされず、どれくらいの報酬をもらっているのかが分からないため、一般の人からすればとっつきにくいよくわからない職業という印象になってしまいます。

報酬形態も分からず、どれくらいもらっているかもわからないという状況ではプロゲーマーを目指すことに抵抗を覚えるのも無理はありません。

普通のスポーツ選手は選手として働ける活動期間が一般的なサラリーマンよりも短いぶん、短期間にそれだけ多くのお金を稼ぎます。しかし、プロゲーマーは選手としての寿命はフィジカルスポーツと変わらないのに給料はそこまで多くないという状況です。特に、FPS(一人称視点のシューティングゲーム)のプロ選手の寿命は非常に短く、引退後はコーチやストリーマーとして活動することになります。選手としての寿命が短いうえに報酬もそこまで多くないとなればプロになる旨みは薄くなってしまいます。

観戦の難易度

eスポーツの普及において最後に障害となるのが観戦して楽しむのが難しいということです。

一般的なスポーツであれば、アスリートは鍛え上げられた体をしており、一目見て「強そう!」と思わせてくれます。しかし、eスポーツのプレイヤーでは、体型はあくまで普通の人と変わらず、外見もどこかアウトローだったりオタク気質に見られることがあります。

このような第一印象の問題は試合の観戦の際にも起こります。

フィジカルスポーツの観戦には多くの知識を必要としません。もちろん知識を持って観戦するほうが楽しめますが、そうではない場合でも「なんかすごそうな人がすごそうなことをしてる」ということが伝わってきます。そのため、印象や雰囲気だけでもスポーツ観戦を楽しむことは可能です。

一方、eスポーツは筋肉の強化などのフィジカル的な要素は殆どありません。反応速度や意識配分、判断能力など、座学や経験で身につける能力の重要性が高くなっています。そのため、観戦者側は「なぜプロが今その判断をしたのか」などを理解できる能力が必要になります。これは実況解説で口頭で言われても実感しにくいもので、実際に自分がプレイしたことがあり、「その判断や操作がいかに難しく、高度なことなのか」を知っておかなければなりません。

また、多くの場合で、ゲームには様々なキャラクターやバトルフィールドが存在します。観戦する際にはそのような知識も持ち合わせておかなければ楽しむことができません。

一般的なスポーツの場合はルールは直感的でわかりやすく、そのルールさえ覚えれば最低限観戦を楽しむことができます。しかし、eスポーツ観戦を楽しむためには、①複雑なルール, ②多くのキャラクター知識, ③判断力の基となる座学, ④戦略・立ち回り・読み合い……と多くの知識を要求されます。

つまり、観戦を楽しむためには実際にゲームをプレイしなければならないので「観戦者数=プレイ人口」となってしまうのです。これでは観戦者数が増えていくことは難しいでしょう。

さらに、観戦に至るまでの難易度も高いという特徴があります。野球やサッカーなどのメジャースポーツやオリンピック、世界陸上などの大型のイベントがあるフィジカルスポーツでは、テレビでの中継やニュース番組で大々的に報道されます。テレビでの報道は、メディア側が一方的に情報を報じてくれたり、ハイライトや見どころをまとめて放送してくれたりしています。

しかし、eスポーツの大会の配信プラットフォームはネットであり、YouTubeやTwitchなどの配信を自ら主体的に見に行かなければなりません。テレビをつけていれば勝手に情報が入って来るメジャースポーツとはここが大きくことなります。観戦者サイドが能動的に動かなければならないということは、観戦のためにエネルギーを消費するということで、観戦の普及には障害となります。

スポンサー不足

上述したように、観戦の難易度が高いということはゲームをしない多くの人に対して普及させるのが難しいということです。これではゲーム大会やプロチームのスポンサーになるメリットが薄まります。

eスポーツの界隈の内部に対して大きな宣伝効果があったとしても、界隈が若く、10代20代を中心としたコミュニティなので、購買力がありません。購買力がある30代以上の層に対して訴求力がないことが宣伝効果の低下につながっているでしょう。

海外のトッププロチームも赤字であったり、有名プロが所属しているチームが解散するというのも、スポンサー企業に思ったよりも宣伝効果がなかったと判断された可能性があります。

 

健康被害

最後は健康被害です。

フィジカルスポーツを長時間やると、ケガの可能性はあれども基本的には健康促進効果があります。しかし、ゲームを長時間やると、ゲームのテクニックの代償に「眼精疲労」「腰痛」「肩こり」「精神疲労」の危険があります。
eスポーツは高い集中力を持続させる競技なので、目や脳に疲労がたまります。しかし、脳の疲労は体の疲労よりも実感しにくいため、自分の脳が疲れていることに気付かずに長時間プレイしてしまいます。その結果、ゲーム依存症となる危険性があります。

さらに、部屋の中で画面ばかり見ていると精神的にもかなりの負担がかかります。ただでさえeスポーツはストレスを感じやすい競技なので、適度に体を動かしたり、外に出て人と関わったりすることが肉体と精神の健康にとって大切です。

eスポーツとストレスの対処法についてはこちらで解説しています

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まとめ

このようにeスポーツは実は解決しなければいけない問題を多く抱えています。

法律の整備やプロの収入状況などは時間をかけてゆっくりと解決していくもので、すぐには改善されません。
健康に悪いと言われているものをスポーツとして推進していくのが正しいのか、という議論も活発に行われています。

とはいえ、JeSUの試算によるとeスポーツ市場はまだまだ大きくなるとされており、業界内からはポジティブな意見が見られます。

eスポーツ市場規模の予測  (https://jesu.or.jp/contents/about_esports/) より引用

「Apex」の登場以降「VALORANT」「SF6」と国内で爆発的にヒットするeスポーツタイトルが現れるようになってきました。次第にゲームが大衆に受け入れられてきたと考えることもできます。

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メディアでも注目を集めている「eスポーツ」という言葉ですが、2023年以降はスポンサー離れやプロチームの解散というニュースが目立つようになってきました。

本当にこれから大きくなっていく業界なのか、本当にプロゲーマーという職業は受け入れられるのか、一旦立ち止まってよく考えてみる必要がありそうです。

 

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