任天堂がゲーム大会のガイドラインをついに公表

2023年10月24日、任天堂がゲーム大会における自社著作物の利用についてのガイドラインを公表しました。以前こちらの記事でも触れていましたが、これまで任天堂はeスポーツや大会に関して消極的な姿勢を見せており、明確なガイドラインがない状況でした。

今回のガイドラインの突然の公表はゲームコミュニティやeスポーツ業界にも大きな影響を与えると考えられます。内容はやや分かりにくいもので、日本国内だけでなく、海外の情勢も踏まえて考える必要があります。今回はこのガイドラインの内容を把握し、今後の任天堂のIPを用いた大会のあり方を考えます。

公表されたガイドラインはこちら→「ゲーム大会における任天堂の著作物の利用に関するガイドライン

今回のガイドラインが与える影響は?

今まで任天堂は自社IPのコミュニティ大会について明確なガイドラインを決めていませんでした。しかし、「スマブラ」や「スプラトゥーン」などは積極的にコミュニティ大会が開催されており、大きな盛り上がりを見せていました。これまでは、任天堂の黙認のもとで開催されていましたが、今後は今回のガイドラインに違反した場合は公式から大会の中止を求められる可能性もあります

では具体的にガイドラインの内容を見ていきましょう。

大会の規模や定義について

ガイドラインの最初に規定してあるものがコミュニティ大会の規模と定義、参加費についてです。最初に記載されていることからもその重要度がわかります。下はガイドラインの原文です。

一般的には、コミュニティ大会とは「任天堂公式大会以外のすべての大会」のことです。まず、ここでは「コミュニティ大会は小規模で行うように」と書かれています。ではそれはどれくらいの規模なのでしょうか。原文のQ&Aには次のようにありました。

注目すべきは一番下の行で、「出場者はオンラインの場合は300人以下、オフラインの場合は200人以下」とするよう明記されています。

参加費や観戦費についてもまとめると、「個人主催で大会を開催する場合、オンライン大会は出場者は300人以下で、参加費・観戦料の徴収は禁止、オフライン大会の場合は出場者は200人以下で、参加費2000円以下、観戦料1500円以下」とされています。

また、コミュニティ大会は営利を目的としてはならないということが明示されています。

参加費や観戦料の合計が大会運営費を超えてはならないとされています。

「参加費を景品購入費用にあててはならない」とも書かれています。これは賭博法に抵触しないようにするためでしょう。参加費を払ってゲームに勝つと景品がもらえるという形式が賭博法にあたるとされており、日本のeスポーツ業界は古くからこの問題に取り組んでいました。

海外向けのガイドラインでは、100円→1ドルの基準で換算され、規定されています。海外はスポンサーがついていたり、賞金を出している大会も多く、参加費も高額である場合が多いので、日本以上に影響が大きいと思われます。しかし、海外には上述したような日本の賭博法がありませんので、参加費を賞品の購入や景品に充てることができるようです。

次はプロシーンには欠かせないスポンサーについての項目を見てみます。

スポンサーについて

ガイドラインには「コミュニティ大会の開催において、スポンサー等の第三者から物やサービス、金銭等の提供を受けることはできません」と明記されています。さらに、商品やサービスの宣伝も不可とされており、ここは他のゲーム会社と比較しても非常に厳しい規約と言えます。eスポーツはスポーツ興行ですので、スポンサーによって選手の活動は支えられています。大会の景品の提供やプレゼント企画にはほとんどの場合、スポンサーが関わってきますので、今後はそのような賞品やプレゼントは任天堂タイトルの大会では少なくなっていくでしょう。

大規模な大会では多くのスポンサーがついていることも一般的で、ここは影響が大きいと思われます。

さらに、スポンサー企業の宣伝が完全にできなくなったと解釈するのであれば、プロゲーマーは大会で所属チームのユニフォーム着用が出来なくなります。ユニフォームには協賛企業のロゴが入っていることが一般的であり、協賛企業の広告も兼ねているからです。また、一企業によって支えられているプレイヤーは、そもそもチーム名を出すことさえ難しくなるかもしれません。

知的財産について

ガイドラインによると、ゲーム画面のキャプチャやスクリーンショットを大会の告知物に掲載することができるようです。しかし、キャラクターイラスト等については次のように規定されています。

これまで、コミュニティ大会の告知や大会当日の名札には、有志のイラストレーターによって作成されたイラストが使用されていました。今後、告知画像や名札のあり方は変化を要求されるでしょう。

告知物にはゲーム内の映像や画像を使用できると明言されたことはプラスではありますが、二次創作的な面が強いキャラクターイラストの是非が問われています。

大規模大会に影響は?

このガイドラインでは、オフラインのコミュニティ大会は参加者200人以下と規定されています。しかし、国内には1000人規模のオフラインのコミュニティ大会がありました。今後、このような大会は開催されないのでしょうか。

そのような大規模大会の開催には個別に申請が必要になりました。任天堂が大規模大会を把握する狙いがあると考えられます。

2023年10月時点では、参加者が500人を超えるスマブラの大会「スマバト」や「ウメブラ」が開催の許諾を受けています。これまで開催されていたメジャーな大型大会が開催されなくなるということはなさそうです。

しかし、ガイドラインにはコミュニティ大会内での物販などは禁止されています。これまでは大会の会場内で販売されていたグッズやコントローラーなど周辺機器は控えるようになるかもしれません。

オフラインのeスポーツの大会にはチームグッズやスポンサー企業の物販などがあることが普通でした。任天堂のIPを用いた大会ではこのような物販が行えないとなると、協賛企業のマネタイズの難易度を考えれば、eスポーツとして発展することは難しいでしょう。

まとめ

今回のガイドラインの規定は、主に海外のコミュニティ大会の状況を受けてのものだと考えられます。海外の大会では日本と比較しても高額な参加費を徴収しており、配信や観戦による興行化が進んでいました。企業や個人が大会を開催して収益を上げており、海外ではそれは当たり前の状態でした。過度にエンターテイメントとなっている現状を整理するためにガイドラインを制定した可能性もあります。

国内でも同様の規定がなされたことにより、今後の大会運営の在り方が変わってくることは間違いありません。これまでコミュニティ大会は黙認されており、グレーゾーンという扱いでしたが、具体的な数字が盛り込まれたガイドラインが制定されたことで、大会運営がやりやすくなったという側面もあります。

一方で、大規模大会や物販、告知イラスト、スポンサーなど、従来と変えなければならないであろうことも多く出てきました。特に、物販を含むスポンサー周りの規定は厳しく、任天堂ゲームのプロ選手やチームは今後どうなっていくのか、転換期にきています。

かねてより「任天堂はeスポーツに消極的である」と言われていましたが、今回のガイドラインによって任天堂ゲームのeスポーツ化は極めて難しくなったと言えます。

eスポーツに寛容な企業であったり、協力的な運営の場合は、ガイドライン制定にあたって、コミュニティから意見をもらうことが多いですが、今回の任天堂のガイドライン制定は、コミュニティの意見を無視した運営の一方通行な発表であったために、賛否両論を呼びました。

ガイドラインの基本的なスタンスとしては「任天堂ゲームを用いて大会で金儲けをするな」ということになります。大会運営やプロプレイヤーとして収益を上げることができないとなると、大会やプロチームに協力していた企業は離れていくでしょう。

国内外ともに大規模な大会で興行として盛り上がりを見せていたタイミングでのガイドラインの公表は今後の大会情勢やプロ活動にも大きな影響があることは間違いありません。

数年後に任天堂ゲームのプロ選手や大会がどうなっているのか、そもそも残っているのか、注目して見る必要がありそうです。

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