eスポーツのオリンピック採用に向けた課題と展望

国際オリンピック委員会(IOC)はオリンピック種目にeスポーツを追加することを検討しています。2023年にIOCが主催するeスポーツ大会がシンガポールで開催され、野球の「パワプロ」やモータースポーツの「グランツーリスモ」など複数のタイトルで選手たちが鎬を削りました。
シンガポール大会が成功に終わり、IOCは2026年に日本でのeスポーツ大会の開催も意欲的に模索されています。

eスポーツの注目度が高まる中、そのオリンピック採用には賛否両論があります。今回は採用される予定の競技と共に、その問題点と展望について解説します。

オリンピックに採用される種目

オリンピックに採用予定のeスポーツ種目は次の10競技になります。
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  1. アーチェリー (Tic Tac Bow)
  2. 野球 (WBSC eBASEBALL パワフルプロ野球)
  3. チェス (chess.com)
  4. 自転車競技 (Zwift)
  5. ダンス (Just Dance)
  6. モータースポーツ (Gran Turismo)
  7. 射撃 (フォートナイト)
  8. テコンドー (Virtual Taekwondo)
  9. テニス (Tennis Clash)
  10. セーリング (Virtual Regatta)

パワプロやグランツーリスモ、フォートナイトは日本でのプレイ人口も多く、馴染み深いタイトルだと思います。
「Valorant」や「Apex」のようゲームは採用されていません。また、格闘ゲームも競技種目に含まれていません。これは暴力や銃という内容を含むからというのが理由のようです。

競技にする際の問題点

オリンピック種目にeスポーツが入ることには否定的な意見が多く出ています。その理由を見ていきましょう。
eスポーツ自体が抱える問題点はこちらの記事で紹介しています。

このままではオワコン化?eスポーツの抱える課題
昨今急速な勢いで成長しているeスポーツ市場ですが、それに伴ってさまざまな問題が分かってきました。eスポーツの現状は、海外の大手プロチームが赤字であったり、国内プロチームは赤字を垂れ流していたり、ゲーム大会が参加者不足になったりと、メ...

今回は上の記事で紹介した課題以外にも、オリンピック種目となることによって注目されている問題点を解説します。

問題点1:健康被害

一番言われている問題はゲームを長時間やることによる健康被害です。
野球などのフィジカルスポーツでもケガのリスクは当然ありますが、eスポーツの健康被害はケガとは性質が異なります。

eスポーツは身体というよりも精神的・神経的に健康被害が出ます

フィジカルスポーツでは体を動かすため、ケガのリスクはありますが、健康促進にメリットがあります。精神的なストレスも体を動かすことで緩和されるため、大きなストレスにさらされるケースは多くありません。
しかし、eスポーツは基本的に技術や反応速度、判断力を鍛えていきます。手先と目や耳、脳といった部分のみを動かすため、体全体を動かしたり、力んだりする瞬間がなく、フィジカルスポーツ以上に多大なストレスに晒されることになります。

視力の低下はさらに深刻な問題で、運動に伴う軽いケガとは違って簡単には修復しません。プロゲーマーは一日に何時間も画面を凝視するので目に相当な疲労がたまります。
それに加えて、体もほとんど動かさないので、健康的な体や筋肉質な体になることはありません。

問題点2:ゲーム依存症

ゲーム依存症は数十年前から問題になっている病気です。プロプレイヤーとなるには当然多くの時間を練習にあてなければいけません。それは普通のスポーツ選手もeスポーツの選手も同じです。

しかし、健康被害でも解説した通り、ゲームを長時間行うことによるメリットはスポーツを長時間行うメリットよりも少なく、健康被害が懸念されています。

スポーツは体力の限界が来るので長時間やり続ける人は多くありませんが、ゲームを長時間やると脳や目が疲れていきます。脳の疲労は体の疲労と違って自覚しにくいので、長時間続けてしまい、依存症になりやすくなります。

オリンピックの種目になることによってこのようなゲームによる健康被害や依存症を助長させてしまうという懸念があります。

問題点3:ゲームの版権会社の存在

eスポーツの競技化とは切っても切れない問題がゲームには作った会社が存在するということです。

オリンピックの種目となるゲームのタイトルがどのように選出されるかは判明していませんが、もし作ったゲームがオリンピックに採用されるとなると販促効果は絶大なので、ゲーム会社にとってはとてつもないメリットです。

結果として癒着や賄賂という懸念もあります。
東京オリンピックでの賄賂のニュースも記憶に新しいですが、興行であるかぎりスポンサーとの関係は必ず付きまといます。

ましてや、eスポーツでは、「競技そのものがどこかの会社のものである」という側面があります。例えば、野球やテニスなどのスポーツそのものは誰のものでもありませんが、eスポーツ競技の野球は「パワプロ」が採用されているので、競技そのものがパワプロを作ったゲーム会社「KONAMI」のものです。

競技の公平性だけでなく、競技として採用されるための選考にも公平そうの懸念が残るということになります。

先ほど紹介したオリンピック種目のアーチェリーに選ばれたゲーム「Tic Tac Bow」は採用が決まった時にはダウンロード数も非常に少なく、iPhoneでは遊ぶこともできないゲームアプリでした。知名度もなにもないリリースされたばかりのゲームがいきなりオリンピック種目に採用されました。
(オリンピックでアーチェリーをやるにあたって該当するゲームがなかったため作成した可能性もあります。)

このように、ゲームの採用理由が不透明ということも問題として残っています。

問題点4: オンラインでの不正の可能性

オリンピックの予選は各地方会場で行われるのが普通ですが、eスポーツではオンラインで行われる可能性もあります。オンラインで行われると会場費などは大幅に削減できますが、不正の可能性も出てきます。とくに対人ゲームには「チート」や「AI」の問題が根深く残っており、この問題をどのように解決するかを考える必要があります。

過去にオンライン大会で結果を残した選手がチートを使用しているために選手登録を抹消されたり、チームを除籍になったりしたケースは多くあります。プロになったあとにアマチュア時代のチートの使用がばれてプロ抹消になったひとがいるほど、チートは業界全体で問題です。一般的なスポーツで言うドーピングのようなものだと言えます。

※チートとは本来ゲームにはないシステムを外部で作成したり、対戦に有利となるプログラムをゲームに組み込むことでゲームをシステム以上に有利に進めるプログラムや外部ツールのことです。

まとめ

オリンピックに採用されるeスポーツ競技と、eスポーツがオリンピックになる場合の懸念点を解説しました。ゲームによる健康被害やゲーム会社との折り合いなど課題は多く残っていますが、IOCは新たな若い層に向けてeスポーツの採用に積極的です。

eスポーツはコスト的に見ても従来のスポーツよりも安価で、男女の身体的な差もないというメリットもあります。

オリンピックでのeスポーツが成功するかどうか、受け入れられるかどうかはeスポーツの今後を左右する大きな転換点になりそうです。

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